話題の映画「かぞくのくに」出演ヤン・イクチュンインタビュー

第10回パリ・シネマ映画祭で、ハートウィニングフィルム・オブ・ザ・ブロガージュリーを受賞。世界数カ国の映画祭への招待、日本、韓国でも公開予定のヤン・ヨンヒ監督の体験を元に製作された話題の映画「かぞくのくに」に出演し、ソンホを監視するヤン同志を演じたヤン・イクチュンさんに、映画についてインタビューさせていただきましたのでご紹介します。

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Q.出演のオファーをもらった時、台本を読んだ時に思ったことは?
 
まずは、台本を読む前に、このヤン・ヨンヒ監督のドキュメンタリーを観ました。そして、そのドキュメンタリーの延長として今回は、映画で自分の言いたいことを表現したいのだと思いました。これはある意味、解決しえないことではありますが、ヤン・ヨンヒ監督としてもこれからも息をしなくてはいけない、息をするその穴が必要だ、空気穴が必要だという部分もあるんだと思います。だからそれを映画にすることによって、息をしているのではないかとまず思いました。
 
Q.この作品に出演することを決めた理由は?
 
監督には「この映画を通して話そうとしているストーリー、監督がこうするしかないと思う感情に自分も共感ができます。監督の気持ちに同意します」というようなメールを送りました。この映画の場合はシナリオの内容がおもしろかったか、そうじゃなかったか、ということではない内容だと思うんですね。あくまでもシナリオ読んだときも、こういう状況に置かれて、そのときに感じる感情というものがある、その感情に自分が共感できるか、できないかということだと思いました。自分としてはすごく共感ができました。
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Q.監督とはどんなことをディスカッションしましたか?
 
振り返ってみると、ちょうど去年の6月か7月に映画のオファーがあり出演を承諾しました。撮影が始まり、自分はこういう状況で生きたことがないので、いくつかの場面において果たしてこうするだろうか?と悩んだときは監督からの助言がありました。監督から実際に経験したこと、感じたことを聞いて、表現に取り入れた部分もありましたね。より具体的にお話すると、コーヒーに砂糖とミルクをいっぱい入れるシーンですけど、私はこんなにたくさん入れるだろうか、と、やはり躊躇する部分もありました。それでも監督はおそらく実際にそういう北朝鮮の人を見た経験があるんだろうなあと、だから私は受け入れて表現をしました。また、最後にソンホのお母さんがヤン同志にもスーツと鞄を準備してくれるシーンの表現は、監督は私に自由に演技をさせてくれました。撮影中、私自身どっかで混乱している部分があると、その混乱が監督にはきっと見えたと思うのですが、それを監督が受け入れてくださったのだと思います。
 
Q.ソンホの妹リエに「あなたも あの国も嫌い」と言われた時、イクチュンさんとしては演じていてどんな思いでしたか?ヤン同志になりきって演じているように思えましたが。
 
いえ逆にヤン同志になりきること、なることはできないと思います。あくまでもヤン・イクチュンでした。リエが「あなたも あなたの国も嫌い」と言ってきた時、私は自然にちょっと笑ってしまったんですね。それは滑稽だったとか、おかしかったって言うのではないのですが、まだまだ若いソンホの妹の女の子がソンホより本国では位が上である自分に向かってきている。そういった意味で思わず自分は最初のテイクのときに笑ってしまったんです。結局それは使われなかったですね。というのもこの映画の中で表そうとしている表現とは違うからです。この映画のなかでヤン同志というのは、少なくとも自分が思ったことをそのまま表現することもできない。それは彼がおかれている社会とか国家というものが背景にあるからです。実際にリエが「あなたも あなた国も大嫌い」っていったことに対して、「その国で自分も兄さんも生きてるんだよ」と言いますが、ヤン同志は自身もきっと多少の混乱もありつつ、そう言ったのではないかと思います」
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Q.日本の役者さんの印象を教えて下さい
 
そうですね。まずは私が外国人だということもあって、皆さん本当に心配りをしてくださいました。実は俳優の皆さんを見てとても興味深かったというか、おもしろかったと思うことがありました。この映画の規模自体が比較的小さめのものだったからかもしれないですが、安藤サクラさんにしても、井浦さんにしても、宮崎さん、津嘉山さん、諏訪さんも、名前も顔も知られている俳優さんたちなのに、たとえばちょっと空き時間があったら、ちゃんとした椅子ではなく、その辺にちょっと腰かけるとか、とりあえず現場の中になじんでいるんです。そして唯一頼りになるとすれば監督がいるだけという感じでした。
 
Q.すごく貴重な経験だったんですね。
 
俳優というのはもちろん体も使いますが、何よりも感情を表現するが仕事なので、感情をちゃんと作れるようなある程度のケアは必要だと思います。たとえばハリウッドであれば、それぞれにトレーナーとか、自分の空間をちゃんと確保できてたりするように思いますが、皆さんほんとに現場で自分の休憩場所は自分で探すところが、ほんとにおもしろかったと思います。今回の場合は大半が家族の中での話だったので、家族の皆さんがうちのなかで一緒に休憩をしたりすることがよかったのかなあと思います。私自身が映画を撮るときも予算が十分にないときは現場でスタッフと俳優がみんな協力して過ごすということもあります。
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Q.最後ソンホが帰国するときにリエがソンホの腕をつかんで離そうとしませんでしたが、そのシーンを思い出すと胸がしめつけられます。ラストシーンで感じたことがあったら教えてください
 
最後はただ立ち尽くし見送るという設定でした。しかし、撮り直しでは、アドリブでした。ですからある意味思ってもなかった場面が生まれたわけです、あのシーンで胸がしめつけられたというなら、やはり演出ではなくある意味ドキュメンタリーですね。もちろん映画であり俳優が演じているのですが、予め意味をしっかりもたせて作りこんだ場面ではなく、即興で、出てきたものでしたからね。
 
Q. ヤン・イクチュンさんとしてこの映画を通して一番伝えたいことは?
 
映画というだけにとどまらず、現実にもこういう人達が存在するということ、こういった環境のもと、心を痛めている人達が存在するということを、見過ごしがちなので、今一度考えてほしいと思います。これは、日本に関すること、そして在日の人達に関すること、北朝鮮そして韓国に関することなので、私達皆が関係していることなのです。そして、私たち自身が、関心をもって、共感しなければならないと思います。そういう意味でこういう映画が作られて、そして皆さんに観てもらえるということは、とても貴重なことだと思います。
 
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映画「かぞくのくに」は8月4日テアトル新宿、109シナマズ川崎ほか全国順次ロードショーの予定。この夏ぜひ観ていただきたい。何かを感じ取れる作品です。
 
◆「かぞくのくに」公式サイトhttp://www.kazokunokuni.com/
 


 

 
 

 

 

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